【フカボリ企画VOL.9】我々のクラフツマンシップ~スライディングマット編~

-【フカボリ企画VOL.9】我々のクラフツマンシップ~スライディングマット編~-

 今から約20年前、某大手引越センターの研修会場で新商品の宣伝する機会を頂き、
「アップライトピアノも1人で移動出来ます」と大袈裟にプレゼンしたところ、実際にピアノを用意されてしまい、死に物狂いで動かした経験があります。当時「スライディングボードシステム」と名付けた商品は、床面養生に使用する青いPP板同士が滑り合う事を利用し、一般家庭の屋内にボードを敷き詰め、作業員はPP板に乗せた荷物を滑らすだけで、大量な荷物を簡単に移動出来るというアサヒオリジナルの提案でした。
案の定プレゼンは大失敗に終わり、いそいそと後片づけをしている際に現場の管理者の方から「君は引越を全然わかっていない。荷物を引きずるのは最もタブーな行為。持って運ぶからこそお客様から対価を貰う事が出来るんだよ」と無作法な提案を窘められた思い出があります。

それから約20年、PP板からプロテクションキルトに素材を変えて開発された商品が、今回のフカボリ商品「スライディングマット(ひくだけ君)」になります。

誕生の経緯は、某大手家具量販店の安全・開発部門の方から声をかけていただき、開発チームに携わったことです。「女性や年配の方でも安全に傷つけることなく大型家具を搬入出来る滑らせられるマット」が製品のコンセプトでした。

開発スタッフの意見をとりまとめたものをアサヒが形にし、それを第一線の現場のプロの方々に使用してもらいながらダメ出しを貰う。不具合の部分を改良し、再び使用してもらいながら新たなダメ出しを貰う。新たな不具合部分をさらに改良し…と何度も繰り返し、最終的に12のこだわりを持った商品が開発されました。

【商品化に至る12のこだわり】
①下敷きマットを敷き、その上を滑らせる事で床面の擦り傷を防止する。
②下敷きマットの表面に起伏が出ないよう中材にミラマットを入れフラットにしている。
③本体マットの裏面は、下敷きマットと摩擦係数が低い生地を使用し滑りを追求。
④持ち手となるベルトは腰への負担を考えて屈まない長さに設定。
⑤持ち手は大きなループ状にしており、片手で引っ張ることが可能。
⑥片手で引っ張ることで、下を向かず広い視野を確保出来る。
⑦片手で引っ張ることで、本体の両側が製品を包み込む形となるため壁面の保護も実現。
⑧ベルトは本体を貫通しており、製品はベルトに乗るため丈夫である。
⑨後部のベルトは押手が足を引っかけない様に短く設定。ループ状にしているため
段差がある際は前後で持ち上げることも可能。
⑩本体マットには専用プレートの出し入れが可能。四分割に分かれているため本体の折り畳みも可能。
⑪専用プレートを装着することで、点荷重のかかる四つ足の製品や冷蔵庫などの重量物にも対応可能。
⑫下敷きマット2枚と本体マットはコンパクトにたため、セットとして持ち運びが可能。


前回の反省から約20年。物流業界における人材不足の深刻化。男女雇用機会の均等。定年の延長やジェンダーの平等化など、労働環境は大きく様変わりしました。
「引きずる」という行為を「滑らす」という概念に変え、安全や作業効率を追求したことで、ようやくこの時代に商品が受け入れられたと深く感じています。
発売から約5年。食器棚やソファーの大型家具の搬入作業での活躍は勿論のこと、
大型家電量販店においても、冷蔵庫や洗濯機の搬入作業に安全対策資材として推奨されています。

K.Nさん