【キルトStudyプラス】「キルトの神髄」

【キルトStudyプラス】「キルトの神髄」

皆さんはキルティングマシンという機械をご覧になったことがありますか?

同じキルティングマシンでも大小様々な種類がありますが、弊社が所有しているキルティングマシンは幅・奥行・高さのいずれもが3m超えの大型の機械です。針が最大で100本程、勿論糸も同じ数だけセットされており、稼働時は「ダン、ダン、ダン・・・」という大きな打撃音を鳴り響かせる、正にミシンの化け物、モンスターミシンです!

このモンス・・・いや、キルティングマシンを弊社は5台所有しています。5台のキルティングマシンにはそれぞれに違った役割があります。フィットカバー(以下フィットと表記)専用機が2台、セーフティーカバー(以下平布団と表記)専用機が2台、ノンスリップマット専用機が1台です。規格品の外に、お客様からのご要望に応じた特注品も、その種類や大きさに合わせて5台のキルティングマシンを使い分けて素材を切り落とします。特に特注品の場合は、規格外の寸法の物が殆どですので、注文数に合わせて生地や綿の使用量から計算します。これも単に1枚当たりのメーター数×注文数ではなく、1枚ずつ切り落とすか2枚ずつ落とせるかによって大きく変わります。出来るだけ生地や綿の無駄がないように、その都度担当者で打ち合わせを行います。

生地と綿をセットして、キルティングマシンをスタートさせてからも「切り替え作業」は続きます。生地幅に合わせて針と糸を足したり減らしたり、注文の内容によっては数10本~最大100本以上ある上糸を全て交換することもあります。更に下糸も生地に合わせた色の糸に交換する場合もあります。下糸は“シャトル”というパーツを使っています。これは通常のミシンで言えばボビンの役割を担っていて、針や上糸の数だけシャトルも使うことになります。シャトルの中身が無くなる度に2名のオペレーターで交換します。100個以上のシャトルでも所要時間は概ね5~6分。ちなみに初心者の場合、10個交換するのに15分以上かかる場合もあります。シャトルをセットする際に、専用の「ホルダー」という細長いパーツを使うのですが、シャトルを乗せるだけで何かに固定する訳ではないので、乗せてから入れるまでの間にシャトルが落下してしまうのです。筆者自身、新人の頃に覚えるのに一番苦労したのがこの作業でした。コツを掴み、現在の速さで出来るようになるまでに、何度も試行錯誤を繰り返した記憶があります。

*シャットル、ボビンの役目をするパーツ。

作る物は違っても、5台のキルティングマシンにはこのような共通する作業が必ず存在します。オペレーターとして気を付けなければならない点は外にも多々ありますが、ここからは商品別にそれらを紹介していきます。

まずはフィット。表地と裏地の間に綿だけではなくゴムが入っている伸縮素材のカバーです。この商品の場合、何よりもゴムのテンションが重要となります。売れ筋の110シリーズの場合で、1枚のフィットの中に入っているゴムは24本。2枚ずつ切り落とされるので、稼働時は実に48本のゴムのテンションを調整しなければなりません。48本全てが同じテンションで進んで行かないと出来上がりがスカートのように片側だけ大きくなってしまったり、真ん中がへこんでしまったりします。こうなってしまうと正規品として市場に出すことは出来ません。社外秘がありますので具体的には書けませんが、指先で微妙なテンションの違いを見極める必要があります。きつ過ぎても緩すぎてもダメ。完成品の最大伸び率が胴回り×2の大きさになるように全てのゴムを調整しなければいけないのです。

また、フィットの場合はキルティングマシンの稼働中に針が折れることも多々あります。その時は即座にキルティングマシンの稼働を止めて、折れた針を特定し交換します。折れた針は生地を裂いて中綿を露出させてしまい商品をダメにしてしまいますので、針が折れてから止めるまでの時間は短いほど被害が少なくなるのです。「針が折れたことなんてすぐわかるのか?」と疑問に思われる人も多いと思います。実際、新人指導の際にもよく聞かれることですが、キルティングマシンの稼働音は、例えば至近距離で最大音量のラジオや音楽が流れていたとしても聞こえないくらいの、言わば「騒音」です。その「ダン、ダン、ダン」という稼働音が鳴り響く中で、私たちは針が折れた音を聞き分けることが出来ます。特別な訓練を受けた訳ではありません。毎日のようにフィットを作っているうちに、そういう機能の耳が出来上がってしまったのです。そんな耳が欲しい方は是非弊社に入社して、フィットを作ってみてください。毎日動かして3カ月も経てばそうなりますから。但し、実生活では何の役にも立ちませんが(笑)。

次にノンスリップマットです。表地がパイル、裏地がスリップストップというゴムのシートで出来ています。このスリップストップという裏地、その名の如く本当に滑りません。滑らない素材をキルティングマシンの中に滑り込ませていくという大きな矛盾との闘い。マシンにかかる負担も他の4台よりかなり大きいものになります。その方法は、残念ながらここにも社外秘という壁がありますので具体的には書けませんが、出来上がったノンスリップマットの裏地に皺が寄らないように、2名のオペレーターが両サイドから強く引っ張り続けなければなりません。かなりの重労働になります。

また、表地のパイルという生地、これは皆さんがお使いのタオルに似た生地です。この性質上、上下の糸に何らかの異常が発生した場合でも気付きにくいという難点があります。糸が生地と同じ色で、更に表面に埋もれてしまうためです。時には表側では気付かずに裏側にまわった時に初めて気付くということもよくあります。よく目を凝らしていないとならない部分です。

 

平布団専用機の2台については、規格品の場合はゴムも使用しません。稼働速度も緩やかです。糸の色が表地と保護色で見づらいということ、重みで弛まないように両サイドから引っ張っていなければならないこと以外では特に操作の面で難しいことはありません。が、この2台は平布団ベースのほとんどの特注品に絡んできますので、サイズに合わせた針糸の抜き差しが頻繁に発生します。それだけではなく、不織布をセットしたり、綿の代わりにミラマットを入れてみたりと、まるでロボットアニメの「〇〇バージョンにチェンジ!」みたいなものです。ニューモッコの肩当てに使うターポリンや一部のノンスリップマットもこちらで手掛けることがありますので、5台のマシンの中ではこの2台の役割が一番多いと思います。

 

工場のキルティング班のオペレーターにはこの道30年以上のベテランから技能実習生まで個性派が揃っています。中には特注を手掛けることに生きがいを感じて、特注のためなら休日返上も厭わないというやる気満々の猛者まで・・・。全員がより良い商品を作るために、最初の一歩であるキルティングの工程で良い素材を作るべく毎日の業務に励んでいるのです。