【キルトStudyプラス】「修理を魅せる」

【キルトStudyプラス】「修理を魅せる」

当社の工場はキルト商品製造にかかわる機械、道具が数多くあります。一部の機械は専門技師にしか調整、修理ができませんが、それを除くほとんど全ての機械は使う職人が日々調整し、故障や不具合があると私や何人かの社員で修理・調整をします。

私は10代のころ、実家が田舎に引越し、農業を営むことになりました。主にサクランボや梨、プルーンやプラムなど果樹が中心で、ワイン葡萄の栽培とワインの販売もしていました。当たり前のように家の手伝いをしたり、農機具を修理したり、食べていくことでいっぱいいっぱいだったので、子供ながらに試行錯誤で働きました。そんな中で私の基礎になる「やる気があれば、なんでも直せる!」精神は培われたのだと思います。

15~16歳の夏のある日の午後、父に頼まれてトラクターで畑の耕耘をしていました。ゆるい傾斜のかかるその畑は南に向いており、傾き始める日差しがまぶしく感じるようになってくる時間帯でした。新しく買ったばかりの大きな赤いトラクターを乗り回せることにとても良い気分だった私ですが、悲劇はあと一列でこの畑の耕耘が終わる!その時に起きました。乗り入れないようにと注意されていた場所にちょっと前輪が入り込んでしまいました。その瞬間、ガッキン!と音がしてトラクターが動かなくなってしまったのです。フロントのエンジン部から白い煙が上がります。私はどうすることもできずに、何が起きたか把握すらできない混乱する頭で、農協の整備士を呼びました。原因は畑から突き出していた鉄の棒に乗り上げてしまい、油圧のバルブが破損したことにありました。草に隠れて鉄の棒に気付きませんでした。冷静な判断や打開策の光明を見出すためには原因を見つけ出せる洞察力、観察力がどうしても必要だと思い知った瞬間でした。

もう一つの心構えが「Improvise repairs」=即興修理です。今置かれた状況で手にした道具で切り抜ける。時にはそれが発想の転換につながったり、自分の周りにある使えそうなものを把握したり、状況を詳しく分析したりと多岐にわたって役立つ行動を起こさせます。

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ミシン屋さんに送った手書きメモ

機械屋さんに「工場長困るよ!そんなに直されたんじゃ商売あがったりだよ!餅は餅屋に任せてよ!」とよく怒られます。時にはお付き合いのために、または後学のために機会を用意することがあります。また、年一回は少なくとも調子を見てもらい、プロの目で指摘をもらいます。しかし、私たちの機械は働く道具であり、日々稼働しています。修理が必要なその瞬間もその道具の活躍が必要で、1秒でも早く直さなければいけない状況がほとんどです。その場に居合わせれば、修理せずにはおれないのです。

その修理は、使えずに困っている職人さんのためであり、何時も文句ひとつ言わず働いてくれている道具や機械のためであり、それを通して生み出される商品を使ってくれるお客さんのためです。少しでも良いものを、少しでも早く確実に手にしてもらおう。そして私たちが生み出す商品の一つ一つがまた、道具ですから、それを使ってお客様にも良い仕事をしてほしい!そう思って今日もまた歯車とにらめっこをするのです。

 

工場長